喪失と成熟、成熟には程遠いけれど

最近読んだ小説には何となく失われたものを取り返したいという欲求が出ているような気がした。それはさておき列挙。

トルーマン・カポーティ 『誕生日の子どもたち』

誕生日の子どもたち (文春文庫)

誕生日の子どもたち (文春文庫)

久しぶりに読むカポーティだが、彼の自伝的要素の強い小説は僕らが通り過ぎた季節についての深い洞察に満ち溢れていることを再認識した。こんな強い感受性を持った人間は成長したとしてもその檻から逃げ出すことは容易ではなく、実際彼が辿った運命はその支配下から逃げられなかったと言って良い。強すぎる感受性は実際的な生活の中で支障になることを知っている者はそれを投げ捨てることを厭わないが、そこに一抹のためらいを感じた人こそ彼の作品に触れたときの感動は大きいと思う。

ジェフリー・ユージェニデス 『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』

ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 (ハヤカワepi文庫)

ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 (ハヤカワepi文庫)

ソフィア・コッポラ監督の映画『Virgin Suicide』の原作。原題の方がこの小説の内容をよく表していると思う。邦題は余りに饒舌すぎる。アメリカの片田舎で暮らす5人の姉妹が次々に自殺する様子を描いた小説。小説としての出来は高いとは言えず、姉妹と同級生だった主人公が成長してから当時の資料を基に物語を再構成するという語りの仕組みも高い成果を挙げられてはいない。しかし、次々と自殺する少女たちの詩的イメージは絶大であり、そのイメージを想起させる点にこの作品の価値はある。そういう点では僕は見たことがないのだが、むしろ映画の方がこのイメージをより表現することは可能であるように思われる。映画の音楽は今は懐かしい(?)フランスのエレクトロニック・デュオのAIRですね。

恩田陸 『夜のピクニック

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

今更読むのも多少気恥ずかしいところがない訳ではなかったが、読後感は強い感動と共に色々な記憶を想起させられた。脇役の使い方が非常に上手い。それはさておき、売れる小説というのは中々文学的な評価を受けにくい所が多々あるが、これだけの作品を書けるのに直木賞未受賞ってのはおかしいだろう。

古処誠二 『アンフィニッシュト』

アンフィニッシュト (文春文庫)

アンフィニッシュト (文春文庫)

これは全くテーマと関係ないのだが。若手作家でありながら執拗に戦争をテーマにした作品を書いているという点が気になって読んでみた。この作品は直接的には戦争が舞台ではなく、自衛隊内部で起こった銃の紛失事件を巡るミステリータッチの作品。著者が自衛隊出身だからこそここまで細部に渡る叙述が可能なのだろうが、彼は大きな思い違いをしているように思える。それは自衛隊内部で起こった銃の紛失などは(自衛隊以外の)我々シビリアンは誰も、本当に誰も気になどしないという極々当たり前の事実である。その事実に目を向けて狭い世界に入り込んだとしても、それが我々に訴えかける可能性は0に近い。とはいえ、戦争や戦場をどのように彼が書くのか気にはなるので、他の作品も読んでみたいと思っているが。